なぜわれわれはイタリア製の生地、繊維を「かっこいい」「素敵」と思ってしまうのか?そして、それは一般消費者だけでなく、アパレルのプロのバイヤーにとっても同じことだ。「高くても売れる」イタリア繊維産業の秘密を解説しよう。
アパレルの素材、覚えるのは3つだけでOK
まず、「素材」の話からはじめたい。
衣料品の天然素材は、春・夏用の「コットン」、秋・冬用の「ウール」が代表的で、これに光沢を出す装飾的色合いの強いフィラメント系の「シルク」がはいる。この3つの素材にはそれぞれ代替品として生まれた「合繊」「化繊」と呼ばれる人工の糸がある。綿の代替は「ポリエステル」(元は資材用途だった「ナイロン」も)、ウールの代替は「アクリル」、シルクの代替は「レーヨン」である。またコットンの派生形としてはいずれも天然繊維の麻やラミーがある。
それぞれ用途や目的、予算、風合いによって使い分けているわけだが、基本的な天然繊維として「コットン」「ウール」「シルク」の3つを覚えておけば素材に関しては十分だ。
昨今の円安とディスカウンターとの競争から「もはや値段を上げられない」という状況になって、「アクリル100%」というゲームセンターの景品並の素材を日本の伝統あるアパレルが使い始めたこと、またアクリルとウールの違いさえ分からず、購買する消費者が増えていることはなんとも嘆かわしいことだ。ここからは私が10年間イタリアの「糸担当」だったころの話を交え、誰も書けないイタリアと日本の紡績(Spinning)について書いていきたい。
イタリアの紡績は「染色」が先 その理由は?
糸を染める際、①まだ綿(わた)の段階で染めて紡績するか、②生地糸をつくって紡績して染めるかのいずれかである。前者を先染め、後者を後染めという。
イタリアは前者、日本の工場は後者である。染色工程を前に置くことと、後ろに置くことで何が変わるのだろう?
前におけば、例えば、違った色綿(わた)同士を組みあわせ、メランジ(色に濃淡がある)色につくることができる。これによって、色に深みと面白さを出すことができる。これに対して日本などの後者は、ベターッとのっぺりとして単色ゆえのつまらなさが出てくる。
この違いは一目でわかるものだ。私は、この先染めの勉強をするため、イタリア北部のコモ湖の近くまで染色工程を見に行ったことがある。
先染めにも欠点がある。それはすべての色をストックしなければならないということだ。綿(わた)を染めるときは、ある程度の量を一度にやらなければならず、必ずストックがうまれるからだ。しかし、イタリアはこの弱みを強みにする戦略をとっている。
イタリアは1㎏からサンプル見本を出荷してくれる。これに対し、後染めしかできない日本の場合は15㎏(ミニマム)からの出荷となり、使い勝手が悪い。
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