食品スーパー(SM)の総菜部門において、圧倒的な集客装置になっているのが唐揚げだ。競合との差別化を図るべく、SM各社は商品改良を重ねてきた。
直近では総菜のSPA(製造小売)化の流れの中で、原料調達や商品開発も完全に内製化することにより、より専門性の高い商品づくりを志向する動きも目立ってきた。
そこで本稿では、新たな変化が訪れつつある「唐揚げ」という1カテゴリーを、購買データや口コミデータからあらためて分析してみた。
平日と週末で異なる唐揚げへのニーズ
筆者が所属する、市場調査大手インテージ傘下のリサーチ・アンド・イノベーションは、レシートと商品バーコードをスキャンしてアップすることでポイントが貯まるアプリ「CODE」の開発・運営を行い、そこで収集した購買データ「買いログ」を使ったマーケティング支援を提供している。
「CODE」の購買データから、SM業態における総菜のカテゴリー別の販売構成比(購入個数ベース)を算出すると、「揚げ物」「米飯類」「弁当」「寿司」の4つのカテゴリーで半数以上を占めていることがわかった。
いずれも家庭での調理に手間がかかる商品群であり、総菜としてのニーズがとくに高いことが推察される。
最もシェアが大きい揚げ物の中でもいちばん購入率が高いのが、今回取り上げる「唐揚げ」だ。食卓の定番メニューであり、手に取るお客が多いことは容易に想像がつく。
ただ、唐揚げと一口に言っても、さまざまな規格・形態が存在する。単品パックのほかにも、唐揚げ弁当や冷凍唐揚げ、あるいは唐揚げの素材としての鶏肉や唐揚げ粉も含めれば、複数の部門にまたがって唐揚げ関連商品が扱われている。
では、お客はこれらのアイテムをどのように使い分けているのだろうか。「CODE」の購買データをもとに、「唐揚げ(総菜)」「唐揚げ弁当(総菜)」、素材からの調理に使う「唐揚げ粉」、冷凍食品売場の「冷凍唐揚げ」の4アイテムで比較してみた。
まず、購入している曜日の違いを調べた(図表❶)。全体的に週末の購入率が高く出ており、家族が集う場での登場頻度が多いことが見てとれる。
他方、冷凍唐揚げの購入率が火曜日と日曜日で最大となっている。これは販促セールが打たれることの多い火曜日と、まとめ買いをすることの多い週末に購入対象になりやすいことを示唆している。
次に、平日と週末に分けて購入時間別に見ていくと(図表❷)、平日も週末も昼時は「唐揚げ弁当」が突出しており、安定した需要があることがわかる。ただし夕方以降については、平日が「唐揚げ(総菜)」、週末は「唐揚げ粉」がそれぞれ伸びている。
つまり平日はおかずの1品として総菜の唐揚げが、週末はメーンのおかずとして唐揚げを素材から調理することのニーズがある程度増えるのだろう。
「3人世帯」「子供1人」が需要変化の“境”に?
次に、唐揚げの購入者のプロフィールを見ていこう。まず世帯人数別に見ていくと(図表❸)、世帯人数が少なくなるにつれ、唐揚げ粉→冷凍唐揚げ→唐揚げ(総菜)→唐揚げ弁当(総菜)の順に、素材調理から一食完結型へのニーズが高まる。
逆に言えば、世帯人数が増えるほど、手間はかかるがたくさんつくれて経済的な「素材調理」を選択する向きが強い。
加えて注目したいのが、世帯人数が3人の場合、カテゴリーごとの違いがあまり見られない点だ。つまりこの3人世帯を境に、“調理寄り”か“総菜寄り”かにやや偏重していく。この点は、個店で唐揚げの商品政策(MD)を策定する場合、大きなポイントになりそうだ。
さらに、その世帯における子供の人数による購入率の違いも分析してみた(図表❹)。結論から述べると、子供の人数が少ないほど総菜が選ばれ、多いほど「唐揚げ粉」「冷凍唐揚げ」が選ばれる傾向が見てとれた。
子供が多いほど育児の忙しさから調理の手間を忌避するかと思いきや、簡便性よりも量や経済性を優先する傾向が強いといえるだろう。
なお、子供が1人の場合はカテゴリー別の濃淡が少なく、いまや全子育て世帯の約5割を占める(2022年、厚生労働省より)「子供1人の家族」もMD策定のうえでの1つの基準点になりそうだ。
ここまでをまとめると、「唐揚げ(総菜)」「唐揚げ弁当」は世帯人数が1~2人かつ子供がいない世帯のお客からのニーズが高く、「冷凍唐揚げ」「唐揚げ粉」など調理系商材は世帯人数が4人以上・子供2人以上のお客からの需要が大きいということになる。
イオンリテールを筆頭に「唐揚げのSPA化」が加速
さて、SMにおける唐揚げに関して注目したいのが、総菜のSPA化の潮流を受けての動きだ。SM業界では、総菜の原料調達から商品開発、製造、販売までを卸やメーカーのノウハウに頼ることなく、一気通貫で内製化する動きが進んでいる。そして唐揚げもその潮流に乗って、さらに進化しつつある。
とくに筆者が注目しているのが、流通大手イオンリテール(千葉県)の唐揚げだ。同社は24年に新たな総菜のプロセスセンター(PC)「クラフトデリカ船橋」を千葉県内で立ち上げ、そこに商品開発機能も置くことで、PCを拠点とした総菜のSPA化を推進している。
「まいにち、シェフ・クオリティ」を掲げ、製造効率と専門性の両軸を追求しているのだ。
このクラフトデリカ船橋では、加工品(寿司やチルド総菜など)に加え、半加工品(総菜に使う調味料の製造、原材料の加工など)の製造も行う。
後者の代表的商品が、「唐揚げ唐王」である。19年の発売以来、一般社団法人日本唐揚協会が主催する「からあげグランプリ®」東日本スーパー総菜部門にて、5年連続「金賞」を受賞、さらに24年にはイオンリテール初の「最高金賞」を受賞した。
そんな看板商品を、クラフトデリカ船橋の稼働に際してさらに改良。自社製のオリジナルブイヨンを真空調理で浸透させる製法を採用し、より旨味が感じられる専門店品質を追求した。
製造については、PCで原料の加工と下味をつけるなどの作業をしたうえで各店に供給し、店舗では「揚げる」という最終工程のみを行う。これによって店舗での作業負荷は最低限に抑えつつ、より本格的な味わいの唐揚げを出来立ての状態で売場に並べているのだ。
まさに“唐揚げのSPA”を体現するような商品であるが、実際にお客はどのような印象を抱いているのか。「CODE」で収集しているユーザーの口コミデータを見てみよう。
味については、「生姜の味がしっかり感じられておいしかった」「生姜が効いていて、やわらかくて香ばしい」など、生姜の風味に関するものが目立った。食感については、「カラッとしていておいしい」「皮目がカリッとしている」などの意見が寄せられている。
また食べ方では「トースターで一度温めてから食べるとおいしい」という口コミも多く、食べる際に衣の食感を重視する傾向が強いようだった。こうした「家での食べ方提案」が売場で充実していると、さらなる購買促進につながるかもしれない。
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唐揚げは総菜を代表するメニューであり、その店・チェーンの競争力を左右する重要なカテゴリーである。それだけに各社は商品開発に力を注いできたが、そこに総菜のSPA化という新たな潮流が加わったことで、今後はより独自性の高い商品づくりが進んでいくと想定される。
ただし、やみくもに「内製化」を志向するのではなく、自店の顧客特性をあらためて分析したうえで、それに最適な商品構成や売場づくり(総菜だけでなく、素材系の品揃えやクロスMDを充実させるなど)を行うことも重要だ。