「何が起こるかわからない」トライアル、西友買収の衝撃
「もはや何が起こってもおかしくない。何が起こるかもわからない。言うなれば、新しい流通革命の時が来たのかもしれない」──。今年3月中旬、アークス(北海道)グループを率いる横山清会長はこうこぼした。長年、国内小売市場の変遷を目の当たりにしてきた横山会長をして「予測不能」と言わしめるほど、とくに食品小売を中心に、業界の全容は激変しつつある。
なかでも市場にとって大きな“サプライズ”となったのが、トライアルホールディングス(福岡県:以下、トライアル)による西友(東京都)の買収だ。トライアルは3月5日、米投資ファンドのKKRとウォルマート(Walmart)が保有する西友の全株式を取得し、7月1日に同社を完全子会社化すると発表した。トライアルと西友の売上高を単純合算すると約1兆2000億円。国内有数の規模を誇る流通グループが突如誕生することになった。

西友をめぐっては25年に入ってから、KKRによる同社株売却の意向が報じられ、イオン(千葉県)、「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都:以下、PPIH)、そしてトライアルの3社が関心を示しているとされていた。
業界関係者の間では「PPIHが最有力、次にイオン」という見方が大半を占めており、トライアルの名は議論の俎上にのることすら少なかった。しかし、最終的に西友を手にしたのは“大穴”のトライアル。約3800億円という買収総額については割高との評価も多いが、UBS証券の風早隆弘氏は「西友獲得のメリットはきわめて大きい」と見る。
西友は再成長戦略の一環として、北海道の店舗をイオン北海道に、九州の店舗をイズミ(広島県)に譲渡し、本州での事業集中を図っていた。業容はスリムになったとはいえ、総店舗数は240超、しかも首都圏の駅前など好立地店も多い。これに生鮮・総菜のプロセスセンターや物流拠点、そしてさまざまなスキルを有する人材が加わる。
これらを一括で手に入れられることを考えれば、トライアルHDの亀田晃一社長(買収発表時点。4月1日より永田洋幸社長が就任)の言う、「西友の買収はわれわれにとって必要不可欠なM&Aだった」という言葉もうなずける。
なお、現時点で西友の屋号やプライベートブランド(PB)の扱いについて変更はない模様。ただ、西友の店舗を母店に、トライアルが九州で実験を重ねてきた小型フォーマットを出店する可能性は高い。そうなると、首都圏におけるトライアルグループのマーケットシェアは一気に向上することになる。