映画監督・足立紳、撮影中のため今月も妻が代打ち。息子の転校、友人の死、猛暑で疲弊する9月

「足立 紳 後ろ向きで進む」第54回

 

結婚22年。妻には殴られ罵られ、2人の子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々──それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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9月1日(日)

夫、朝から喫茶店へ。台風接近中で一日中雨が降ったり止んだり。激しい暴風雨はないけれど、じめじめと低気圧。息子、一日中のんびり漫画三昧となるも、明日からの学校に行きたくないモード全開。娘は配信ドラマ三昧なるも息子同様に学校行きたくないモードに突入。私はバタバタ家の片づけ。あれが無くてこれも無い。自宅と仮住まいを何往復もするが色んなものが見つからない。ちょっと夫を恨みそうにもなってしまうが、それで作品がおもしろくなると言うのだから致し方ない。

 

9月2日(月)

始業式。娘は「だめだ、今日は学校休む」とのこと。息子はグダグダになりながらもなんとか行った。夫はクランクイン間近で打ち合わせ三昧。

 

息子、午前中だけの登校なのに顔を真っ赤にして汗をだらだらかいて帰宅。疲れたのか帰宅後ずっと私の近くでまとわりつく。学校を休んだ娘はメンタル好調。どうしてもトッポギが食べたいとのことで作る。粛々と事務仕事。

 

9月3日(火)

朝から霧雨。息子、朝は元気だったが8時が近づくと、どんどんどんよりしてきた。結局学校は行けず。娘も「だめだー」と本日もお休み。夫と私は10時から永田町で打ち合わせだったため、子どもたちを残し出発。子どもの雰囲気に飲み込まれ、かつ今後の仕事にまつわるいろいろな心配もあり我々のメンタルも一気に爆下がり。足取りが重い。打ち合わせ後、ランチでも食べる?と話していたが、子どもらが心配なので家へトンボ帰り。

 

夕方から自宅で打ち合わせ。この打ち合わせには、先方から娘と息子にも質問があったため、子どもたちも同席。大人の方々にはそれなりに礼儀正しい態度をとれるし、元気な様子なので、朝と同一人物に感じられない。この企画が実現すると、私も今まで以上に覚悟を決めなければならないし、どうなるのかまったくよくわからないけれど、実現するといいなと思う。

 

9月4日(水)

娘も息子も無事学校へ。が、息子は近づいてきた修学旅行への行きたくないモードが炸裂しつつある。行けたらいいのになと親としては思ってしまう。

 

夫は娘に作っているお弁当を今日からインスタにアップすると突然言い出して、ずっと放置していたインスタを再開した。弁当のアップなんて今さら感を通り越して、もはや始めるのに大きな勇気すらいりそうなのに、なぜこのクソ忙しいタイミングに始めるのかというと、「忙しい中に娘の弁当まで作ってるなんて良いお父さん!って気持ち悪いけど、それでも言われたいから」とのこと。どこまで承認欲求が強いのか。

 

午前中から撮影に使う本宅の片づけ。スタッフの方が8人ほど来てくださって撮影に不要な家じゅうのガラクタ、VHS、本、フィギュアなどを全員でロフトや2階に上げる。冷房マックスにしても、汗が滝のように流れる。そして劇中でお風呂も使うため、俳優さんがこんな汚い風呂に入りたくないと思わないように、プロデューサーのKさんが漂白剤まみれになりながら、業者さん並みにお風呂をきれいにしてくれた。ありがたい。

 

※夫の一言

撮影準備で慌ただしく、なかなか日記が書けませんが、溢れんばかりの承認欲求を満たすために、インスタで弁当日記を始めました! たしか湯山玲子さんも承認欲求は肯定すべきとおっしゃってましたし! その言葉を励みに頑張ります!

 

9月5日(木)

夫、朝からロケハン。私は、午前中打ち合わせ。その後会社の雑務があり、法務局に行ったり、青色申告会に行ったり。暑くて大汗かきながら自転車をかっ飛ばす。

 

夕方、娘に食事を作り、息子と息子の友達を習い事のあとラーメン屋へ連れていく(かねてより約束していた)。小6ともなると、ラーメン&チャーハンをペロッときれいに平らげる。食用旺盛な彼らを見ながら酒を飲む。

 

9月6日(金)

息子、学校から帰宅後、月曜からの修学旅行に行かない、ときっぱりと申し出る。1学期終わりから「行きたくないなー」と言ってはいたが、お泊りとか大好きなので行くだろうなと思っていた。最近も行きたくないとは言っていたが、それでも土壇場になれば行くだろうと私も夫も思っていたので、息子の本気モードにたじろぐ。

 

夕方スクールカウンセラーとの面談予定があったので、夫とともに赴きその旨を話す。とりあえず月曜の朝まで様子を見るしかないですね、担任にもフォローして貰えるよう伝えておきます、とのこと。

 

本人の気持ちがどこまでなのか(本気で行きたくないのか、背中を押してほしいのか)わからないから対応に迷いが出てしまう。

 

夕方から、元東京国際映画祭のフェスティバル・ディレクター、久松猛朗さんが主宰している勉強会に出席。夫にはロケハン後に飲みに行かずに子どものフォローをしてくれと伝える。

 

※夫の一言

ロケハン後、息子の学校に行き担任の先生と軽く話すと、「荷物を不安がっていたので行こうという意志は感じました」とのことで、なんだかんだ行くのではないかと思う。

 

9月7日(土)

娘、学校→バイト。夫と息子と3人で修学旅行のことについて軽く話す。「明日、結論を出そう」ということにする。どうなることやら。

 

9月8日(日)

朝、息子と夫と3人で修学旅行をどうするか話す。

 

息子「行きたくない。5年生の時に行ったけど、何ひとつ楽しいことがなかった。どうせ行ってもボッチになるのはわかっている。そんなところに僕は行きたくない」とのこと。泣き叫ぶでもなく、癇癪をおこすでもなく、冷静に話している。もうこれは物で釣るとか、「楽しいこともあるかもしれないよ」とか仮定の話で説得しても動かないだろう。息子の視野は限定的だが、それでも「修学旅行に行くのは嫌なんだ」という意思は伝わった。

 

「君の気持ちはわかった。ならば、パパとママは君の意思を尊重しようと思う」と話す。息子、少し安心した様子。

 

最近、戸塚ヨットスクールのドキュメンタリーを見たり、『不登校の9割は親が解決できる』という本を読んだせいか、子どもの意思、主張を全面的に尊重することが良いことなのかどうかはわからない。試行錯誤。親としてはただただ、子どもが人生を少しでも楽しく過ごしていけたらいいなとだけ願っている。

 

とても脳のカロリーを消費したので、落ち着きたくて映画を観に行く。近くの映画館で『ナミビアの砂漠』(監督:山中瑤子)。カメラも照明もかっこよくて、主人公のパワー&エネルギーの持て余し方がウチの娘を見ているようであった。夜は子どもらが大好きなチキンステーキとチゲ鍋。

 

※夫の一言

修学旅行に行かない選択をするってのもなかなかに勇気あるよなあと思った。同調圧力になんの違和感も覚えずに生きて来てしまった私にはできない選択だ。

 

9月9日(月)

朝6時半にアプリで修学旅行欠席の連絡をする。夫は朝から静岡にロケハン。とても暑いので、家にいても退屈するから息子と2人、古着屋や電機屋や本屋に行ったりして過ごす。息子、元気だが元気ない。修学旅行は行っても苦しいし、行かなくても苦しい。

 

お昼ご飯のときに、息子と話す。修学旅行のバスや部屋での皆の大きな声が苦手、運動会のソーラン節の音や先生の大声が苦手、苦手な音を聞いたときは胸がどきどきするということなので、「そういうことならイヤーマフで改善できる! 買ってみる?」と聞くと、「やってみる」とのことで、その場でネット購入。

 

前から地下鉄に乗ったり、救急車が来ると耳を抑えていたし、音楽の時間が嫌いだったから、イヤーマフ付けてみない? とずっと言っていたが、恥ずかしいと嫌がっていたのだ。ようやくイヤーマフを恥ずかしがらず、自分を落ち着かせるアイテムだということを納得してくれたので、一歩環境を変えられてよかったなと思う。

 

夜、娘が帰宅するなり、東京都でコロナの時に払っていた助成金を返せ!と怒っている。なんのことやらわからないうえに、ものすごい剣幕から、勢いに負けて通帳を調べたりしていると、どうやら小池百合子さんが発案した「018サポート」のことらしい。

 

え、それって子育てに使っているよと言うと、「みんな、親から貰っている! その給付金6万円は子どもに配っているものだ!」と大変なお怒り&泣き叫び&大暴れ。こういうときは息子のメンタルにも激しく影響するため、息子を連れて、今ロケセットを作っている元の家に逃げてそこで寝る。

 

9月10日(火)

夫からライン。娘、怒り狂って、家中の物をひっくり返して学校に行った様子。もしかしたら娘も弟が修学旅行に行けなかったことがショックで、それが怒りに結びついたのかもしれない。ただ、あまりの攻撃的な物言いに私も虚を突かれてしまった。

 

本日も、息子と家で映画を観たり、買い物に行ったりのんびり過ごす。自分の仕事が全然進まなくて内心焦りまくっているが、修学旅行期間中は寄り添おうと決めた。

 

昼間、ママ友3人にリサーチしたところ、「018サポートは普通に子育て費に使っている」とのこと。給付金の使い方は各家庭考えがあるだろうが、この給付金を申請したときに娘とちゃんと話をしなかったからいけなかったのかと少し反省。

 

給付金とか、市区町村や学校の手続きとか、特に受験や入学の時とかは、親がやることが多すぎてかなり頭がパンクする(夫がそういうこと一切できないので私が請け負うが、私も苦手なのだ……)。事務は結構大事。坂口恭平さんの『生きのびるための事務』を読もう読もうと思ってまだ読めていないが、ちゃんと読もうと心に誓う。

 

息子、夕方塾に行き、塾の先生にも修学旅行へ行かなかった色々な気持ちを吐露した様子。先生から長文のラインが来る。息子をケアしてくれる大人が多くて本当に助かる。

 

9月11日(水)

息子と髪を切りに行き、今はまっている筋トレグッズを買ったり、ブックオフで立ち読み&買い物をして、大好きな回転すしへ行く。この3日間、いろいろ思うことがあって息子とかなり話をする。

 

息子が「僕、転校したい」と申し出る。今まで何度も転校したいと言っており、その都度、「嫌なこと言う奴は無視してこーよ」とか「あと1年だからガンバローよ」とか「転校したって合わない人間はいるんだよ」と説得してきたが、今回は息子がかなり落ち着いており、強い意志も感じたので、転校について区役所に聞いてみると返す。夜、注文したイヤーマフが届き、息子喜ぶ。

 

9月12日(木)

夫、朝から美術打ち合わせ。娘、学園祭ウィークの始まり。本日が合唱コンクールとのこと。娘とはあの激高からまともに口をきいていない。

 

息子は修学旅行明けの登校。緊張していたが、ランドセルの中には届きたてのイヤーマフがあるから少し心強いようだ。

 

朝、息子を送ったその足で、近所に住む夫の友人宅に行き、玄関に挟んであった振込用紙を取ってコンビニで支払う。その夫の友人から、心身の不調で動けないとの旨が夫に連絡があったのだ。支払った後、カップラーメンとお手紙を玄関に置く。玄関越しに「大丈夫ですかー? なんか必要な物あったら連絡下さいね!」「はーい」と声のやり取りだけしたが、滑舌が悪く心配。夫にもその旨を伝える。

 

その後、私はたまりにたまっている事務仕事に全力。それにしても暑い。36度は体温だ。具合がドンドン悪くなる。

 

15時45分、小学校から頭から湯気を出して息子帰宅。いやなことは言われなかったとのこと。また先生からシャインマスカット饅頭と、ゆるきゃらのキーホルダーのお土産をもらい、うれしそうだった。

 

9月13日(金)

本日から自宅、美術の作りこみ。大勢でいろいろ片づけて運んでくださっている。それにしても暑い。息子、帰宅後、「バスケに誘われた!」と、暑い中公園に行ったが、公園が閉まっていたようで誰もいなかったとのこと。なじみのブックオフで立ち読み。

 

改めて転校について聞くが、やはり意思は変わらないとのこと。区役所に問い合わせると、引っ越しの伴わない転校は両校の校長同士で話し合って決めてほしいとのことで、息子の通っている学校と、行きたい学校に電話して、各校長に息子のことを話す。24日、面談の約束を取りつける。

 

夜は久松猛朗さんが主宰している勉強会へ参加。本日はカメラのアングルやレンズなどを勉強する。大変、面白い。前に一緒にお仕事した人や、お会いしたことがある方々もいらしており、また初めましての方々とも交流ができてうれしかった。

 

9月14日(土)

娘、本日から文化祭。フルーポンチを売るとかで楽しそう。

 

息子、学校。その後、歯の矯正。矯正の日は憂鬱だが、本日は保育園友達が泊まりに来るのでご機嫌。18時から夫が監督デビューした『14の夜』の時に見習いの助監督でついてくれた桜ちゃんが来て、息子と息子の友達とで夕飯を食べていたら、友達のママがキムチ鍋と韓国豚足を持ってきたところに娘も帰ってきて、わいわいした夕食になる。娘ともなし崩し的に仲直り。「なし崩し」というのは夫が勝手に決めた我が家のモットーらしいが、決めるまでもなくそうなっている。

 

9月15日(日)

朝、昨日やった歯の矯正が痛くてご飯が食べられないと息子半泣き。でも姉の文化祭を見に行きたい!と言うので息子と息子の友達を連れていく。私は暑いのも、人込みも苦手な上に、やらねばならならない仕事が全然終わっていないので、2人を高校まで送り届けて、最寄りのケンタッキーの片隅でひたすら仕事。夕方2人が帰ってきてチキンを食べながら(息子、歯が痛くて朝から何も食べれていなかったが、ちぎりながらならチキンはどうにか食す)、「友達がもう1泊するのはありか」と遠回しに聞いてくる。

 

明日は朝から息子が中学入試体験会なので、それがあるから難しいと言うと、2人とも「必ず起きるから! お願い!」ってことで、ま、いっか、となる。

 

夜またその友達のママが飲みに来て、子どもらとみんなでご飯。子どもらを寝かせて親は遅い時間まで飲む。

 

9月16日(月祝)

息子と友達は起きたものの、息子、入試体験会に行きたくない!と動かない。言い分はいろいろあるよう。昨晩、私がお粥を買うのを忘れたこと、友達に優しすぎること、お姉ちゃんが僕にひどいことを言ったのにお姉ちゃんを怒らなかったことなどをずーっとぐちぐち言っている。

 

8時には出ないと間に合わないのに全然動かない。この入試体験会は予約を取るもの大変だったし、本番で緊張しない為にも受けておいたほうがいいと思うと何度も説明したが動かない。私は修学旅行のこともあり、もうこの子は無理強いしても無理だとあきらめたが、夫が粘り強く説得して、どうにか自転車の後ろに乗せることができたので、練馬駅までダッシュで自転車を飛ばす。

 

駅から電車までの道中、電車の中でも(50分間)ずっと私に「謝って! 謝って!」と執拗に言っていた。気に入らないことに対して、それを相手に認めさせないと次に進めないのだろう。スーパーなどで、老いた母親や店員を執拗に叱責している初老の人をよく見かけるので、それが脳裏によぎり現状とフィットしてしまい、苦しくなって心が折れそうになる。

 

50分後、学校の最寄り駅に着いたら、塾の友達がいたので、息子の機嫌が直り、無事に体験入試を受けられた。が、私の気持ちは一切晴れない……。なんなんだろう、どうしたらよいのか……。答えはないが、非常にダメージがでかい。でも息子の気持ちは持ち直したので、私も表面上は機嫌が直ったように取り繕う。

 

入試体験後、息子は「個人面接は行きたくない! 塾友と駅で待っている」とのことで、私だけ学食でドライカレーを食べ、個人面談に臨む。ここ数年は人気が出て倍率が高くなっており、すべての教科をそれなりに取れないと難しいと言われ、ううむと唸る……。

 

9月17日(火)

本日最終的に家の片づけ、そして美術セット搬入。なんだか家がきれいになっている。学校から帰宅した息子がすかさず、「こっちの家のほうがいい!」と。そりゃそうでしょうよ。物が半分に減ったもの……。私もあのごみ屋敷は脳が疲れる。

 

9月18日(水)

祝!クランクイン!

 

めちゃくちゃ暑い中皆様、元気にクランクイン。家が狭すぎて、スタッフが溢れかえり、灼熱路上でひたすら待機。アパートの階段の下(扇風機なし)で、録音部さんが基地を作っていた。

 

9月19日(木)

撮影2日目。本当に暑いが、皆様元気に撮影に臨んで頂いている。どうか最後まで、怪我病気ないように祈るばかり(私と夫は毎日近所の神社にお参り行っている)。

 

本日から、10年前にドイツの映画祭で出会ったドイツ生まれドイツ育ちの日本人の女の子モモが1週間ホームステイ。仮住まいも全然片づいていないが、寝られる部屋があるので、東京滞在時はどうぞ勝手に使ってねと伝える。彼女は行動派で、ドイツで出会った日本人を訪ねて、バイオリンを担ぎながら沖縄、広島、福岡、京都、愛知を転々と滞在してから我が家に来た。大量のドイツのお土産を頂き、グミ好きの夫、娘、息子は喜び、私はコーヒーや美容パックに喜びました。

 

9月22日(日)

撮影5日目。朝ゆっくりモモと話してから、息子とモモと一緒に撮影見学(息子、モモとなら一緒に現場に行けるとのこと)。相変わらず外は灼熱地獄。家に入る場所もなく、路上でうろうろ。息子は5月の大分県の現場でお世話になった録音部の臼井さんがいたので、臼井さんの近くでうれしそうにちょこまかしてる。

 

子役のT君、フードコーディネーターの娘さんのRちゃんと仲良くなり、ずっとゲームをしながら話している。

 

9月23日(月祝)

本日撮影はないが、ロケハン他諸準備。早朝、夫出発。朝、息子、大学生のレンタル先生。その後、ちょっと達成感があったのか、元気になり、ホームステイしているモモからバイオリンのレクチャーを受ける。

 

去年、モモが来たときもモモのギター演奏のそばで歌を歌っていたが、音楽は好きなんだと思う。でも、学校のリコーダーはうまくできないようですこぶる苦手。ちょっと練習すればうまくなるのかもしれないが、そのちょっとの練習がやれない(頑張る気力が振り絞れない)から、苦しいのだよなと思う(それは勉強も同じ)。

 

最近読んだ柴崎友香さんの『あらゆることは今起こる』に大変わかりやすくこの現象が描かれていて、そういうタイプは人より報酬を受けている感じがないという説明が腑に落ちる。私は朝起きて掃除して部屋が片づいたらうれしいし、リコーダー練習してできるようになったり、テストで高得点をとれたらうれしいから頑張っちゃう単純型だが、息子はそもそもの報酬(喜び)を感じにくいというか、苦手なことを頑張るってことが私より千倍くらいハードルが高いのかなと思う。

 

バイオリンレッスンのあと、モモは友達に会いに、息子はいつものブックオフへ。今日は不安が強いのか近くにいて欲しいとのことだったので、私はパソコンを抱えて、ブックオフ近くの喫茶店で仕事。

 

家に帰ると、明日からの修学旅行の服で悩みに悩んでキレッキレの娘と遭遇。「どっちがいい?」と聞くので、「こっちがいいと思う」というと、「どうして!! 理由を言って! 私はそうは思わない!」とのこと。「え、なら、そっちにすればいいじゃん」というと、「そういうことじゃない!」と叫び、バッターン! と扉を力いっぱい閉められた。

 

9月24日(火)

本日、撮休。娘、本日から北海道に修学旅行。7時15分に羽田空港集合なのだが、心配だから始発で行くとのことで5時出発。三食食べなきゃ気が済まない子だから、機内で食べれるように夫がおにぎりをわたしていたが、色々不安なのか大声で文句を言って嵐のように出て行った。

 

息子の転校の意思が強いため、本日転校先の校長・副校長との面談。夫とともに9時に校長室で面談。状況を話す。そういう状態なら当校で受け入れますが、一度体験に来ますか?との申し出。息子に確認してまた連絡すると返事をする。

 

その後、息子の現在通っている小学校の校長とも面談。上記内容を話し、転校の手続きを進めてもらう。校長先生とのW面談は疲れた。

 

夜、先日カップラーメンを届けに行った夫の同級生が亡くなったと連絡が入る。そんなに具合が悪いとは思わなかった……。最後に声を聞いたのが自分なのかと思うと、もっと何か踏み込んでできなかったのかと大いに凹む。家にもよく飲みに来ていた方だ。言葉が出ない。

 

※夫の一言

両校との校長先生の面談が撮休中でよかった。修学旅行のときも思ったが転校という決断をした息子は凄いなとも思う。私ならとてもその決断はできず半年間我慢してしまうだろう。その決断を凄いとは思いつつも、現状通っている学校では何度も先生たちと面談し、息子への対処を話し合って来たし、理解も支援も手厚い。それがチャラになってしまうことを先生方もとても心配してくださっていた。妻も私もそれがもっとも心配だが、いずれにせよあと半年だから、転校先が思うような場所でなくとも流して生活していければいいなと思う。

 

そして近所に住んでいた同級生が死んでしまった。彼が辛い状況にあるのを私は知っていながらほとんど何もできなかった。というよりはしなかった。私は彼に助けてもらったことがある。食えなくて、彼が働く百円ショップでアルバイトをさせてもらったのだ。

 

こんなに近所なのに彼と最後に会ったのは多分10か月くらい前だ。半年に1度くらいは飲んでいたが、ここ2、3回は顔色が悪く、ビールを2杯くらい飲んだだけで道に倒れてしまったりしていた。身体も痩せこけて顔色も悪く、病院に行ったほうがいいと思った。でも、思っただけだった。

 

月に2、3度は「会おう会おう」とLINEが来ていたのに、忙しさにかまけて最近は会っていなかった。撮影が終わったら飲もうな、とこのあいだも約束したばかりだった。会えないほどの忙しさではなかった。動けないからスマホの代金を払ってきてほしいとLINEが来たときもロケハンを理由に妻に行ってもらった。「動けない」とはっきり書いてあったのだ。SOSどころではない。いつかこういう日が来てしまうかもしれないと私は心のどこかで思っていた。思うだけで何もしない。私にはそういうろくでもない面がある。私がもう少しだけでも彼のことを親身に思っていれば、彼はまだ生きていただろう。

 

彼は私と同郷で、医学部を目指して5年浪人したあげく映画学校に入ってきた。4歳年上だったが年上を感じさせない人だった。私の冗談によく笑ってくれる人だった。音楽に尋常でなく詳しかった。CDをたくさんくれた。彼が働いている百円ショップに私を入れてくれたから『百円の恋』という映画を作れて、私はギリギリでこの業界に残ることができた。彼はそのことをとても喜んでくれた。彼も何度も様々なシナリオコンクールで最終審査まで残り、受賞したこともある。50歳を過ぎても粘り強く書いていた。何とかデビューしようと頑張っていたが、ここ1、2年は心が折れているようだった。彼のデビューしようとする努力を私が助けたことはない。彼はとてもいい奴だった。

 

9月25日(水)

撮影6日目。本日も夫たちは朝から自宅にてロケ。私は経理の仕事が全くできていなかったので、粛々と仕事。

 

息子、習い事のあと、そのままロケ地に居座っていると連絡あり。寒暖差で風邪をひき、咳をし始めていたので、首根っこを捕まえて連れて帰る。

 

9月27日(金)

撮影8日目。本日も朝から自宅にて。息子、学校から帰宅するなり子役のT君と遊びたい!とのこと。ちょうど待ち時間だったので、待機部屋に行って息子たちはゲーム。T君の母と私は子育て悩みトークを繰り広げる。

 

夜、娘が北海道から大量のスイーツ土産を持って帰宅。美味しい物をたくさん食べれて楽しかったそうだ。でも、集団で4日間過ごすのは疲れたから、明日は1日寝るとのこと。

 

9月28日(土)

撮影9日目。本日は朝から板橋区でロケ。午後は自宅にてロケ。

 

息子は運動会。ずっと行かない行かないと言っていたが、イヤーマフを買い、転校の手続きも進めていることも知っているため、ずるずると重い足をひきずって登校した。

 

「絶対見に来ないでよ!」と言いながら目は見に来てよ、と言っている感じ。ハイハイと言いながら隠れて見に行く。夫も撮影の合間に見に来れた。家でロケをするとこういう良いところもあるのだな。ものすごく暑い中、かけっこも、ソーラン節も、よく頑張っていたと思う。終わった後は誇らしげだった。ママ友と一緒に帰り、仮住まいで打ち上げ。息子と友達は汚い床に寝そべってゲーム。

 

ひたすら寝ていた娘もママ友との宴会に参加し、将来何になりたいか、大学をどう選んでよいのか不安だ、という悩み相談などをする。私も高校時代は何になりたいか夢がなかったので、進路は悩んだなと懐かしい気持ちになる。うんと悩むといいと思う。

 

本日しか観に行けないので18時10分から『石がある』(監督:太田達成)を見に行く。

 

9月30日(月)

本日、撮休。息子、運動会の振替休みだったが、新しい転校先に体験入学で朝、夫とともに送る。校門前は生徒が多く、息子はとても緊張している様子。校長室で、本日体験するクラスの担任に連れられてクラスへ向かう。本日は体育館で学年朝礼がありそこで息子を紹介するので見学したらいかがですか?とのことなので見学する。朝礼の最後、息子が紹介され、学年全員の前で「足立〇〇といいます。よろしくお願いします」と挨拶。息子がこんなにちゃんと話せるんだと驚いて、隣を見ると夫が号泣していた。マジか。

 

その後、近所の公園に明日のためのロケハン。大変蒸し暑い。私を俳優に見立て立ったり、座ったり、ウロウロと。ロケハン後、近くの中華屋さんでランチ。目の前にロケをするバーがあって、そのロケハンのあとスタッフが入って美味しかった!と教えてくれたので初めて入る。確かにとても美味しかった。

 

そのまま14時30分に息子をお迎え。「どうだった?」と聞くと、「楽しかった。友達ができた。俺、やり直せるかも!」とのこと。「今日もう何もないから映画行く?」と聞くと、「家でゆっくりしていたい」とのことなので、息子を残し夫と『Cloud』(監督:黒沢清)を観に行く。

 

夜は久しぶりに4人で夕食。野菜とキノコたっぷりの鍋と鶏肉炒め。久しぶりに夫が食卓にいるからか、娘も息子もよく話していた。一瞬だけだったが。

 

 

【妻の1枚】

 

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作『百円の恋』が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品『佐知とマユ』(第4回「市川森一脚本賞」受賞)『嘘八百』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『こどもしょくどう』など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。最新作は『雑魚どもよ、大志を抱け!』。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『春よ来い、マジで来い』(双葉社・刊)。