カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール(Alimentation Couche-Tard、カナダ/アレックス・ミラー社長兼CEO):以下、クシュタール)から約7兆円の買収再提案を受けているセブン&アイ・ホールディングス(HD)(東京都/井阪隆一社長:以下、セブン&アイ)。企業価値を上げて提案に対抗するため、イトーヨーカ堂(東京都/山本哲也社長)を切り離し、新社名を「セブン-イレブン・コーポレーション」(仮称)とすることを10月に発表した。この買収提案をめぐる流れは、同社がカナダやメキシコを含む約1万3000店舗を展開する北米市場の中心、米国でも強い関心をもって伝えられている。米国人は、「セブン-イレブン」について何を感じ、買収提案についてどう考えているのか。最新の報道をもとにまとめる。
「歓迎すべき改革」、米国内でも課題山積
買収を繰り返して成長したクシュタールは、米国でおよそ7100店舗を展開するサークルK(Circle K)など傘下に抱えており、米国内における店舗数はセブン-イレブンに次ぐ2位につける。
今回の提案により、2021年に約2兆3000億円を投じて約3200店舗のガソリンスタンド併設型コンビニ「スピードウェイ(Speedway)」を買収した米セブン-イレブン・インク(7-Eleven, Inc.:以下、米セブン-イレブン)を飲み込み、合計2万2000店舗以上という圧倒的かつ寡占的な全米首位の座をめざしているとみられる。
米セブン-イレブンは、累積したインフレ効果で倹約に走る中間・低所得者層の消費意欲が減退し、さらにたばこ販売の縮小も影響し、業績が低迷している。消費者が息切れしていることからコスト増の価格転嫁も思うように進まず、苦境からの脱出は見通せない。
セブン&アイの井阪社長が再成長に向けて打った攻めの一手がスピードウェイの巨額買収であり、シナジー発揮や日米のコンビニエンスストア事業間の連携を通じて利益成長を加速するシナリオを描いてきただけに、現時点で成果を出せていない同社に対する見方は厳しい。
英ロイター通信のコラムニストであるアンシュマン・ダガ氏は10月9日付の分析で、「井阪氏の価値創造の実績は乏しい。クシュタールの買収提案は十分高く(セブンを評価しており)、交渉に応じるべきだ」と論じた。買収提案をセブンに必要な改革に向けての歓迎すべき一歩としてとらえていることがわかる。
また、多くの米消費者も米国内のセブン-イレブン店舗の現状に不満を抱いており、収益向上のため米セブン-イレブンが米国内の444店舗を閉鎖すると報じた10月11日付のCNNの記事には100件近いコメントがついた(コメント欄は荒れたためその後閉鎖)。そこには、以下のような声が散見された。
「コンビニライバルのワワ(Wawa)やシーツ(Sheetz)の店舗はセブン-イレブンよりもきれいで、食品も新鮮でセレクションも多い。米セブン-イレブンは競争に負けて一部店舗を閉鎖するのだと思う」
「収益悪化をたばこ販売の不振のせいにしているが、店舗をもっときれいにしたら客が来るのではないか」
「セブン-イレブンの商品値付けは高すぎる」
「セブン-イレブンにおいて売上の最も大きな割合を占めるのがフレッシュフードであり、セブンは食品を拡充する意向だと記事にあるが、それならばなぜバージニア州スプリングフィールドの店舗で、とてもイケていた(暖かい食べ物の)グリルを撤去したのか」
日本国内では、セブン-イレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長)不調の背景に「食品の値段が高く内容が少ない」など消費者に対する向き合い方の問題が指摘されてきたが、米国においても価値提供の面で同様の不満が挙げられていることが注目される。
井坂社長は、「日米のコンビニ事業を資本効率も考えて経営することが、買収提案の価値を上回り、株主から評価をいただく術だ」と述べ、買収提案に対抗するためには米国のコンビニ事業の収益性を上げることが必須との認識を示した。
その実現のためには、米消費者との向き合い方の改善が必須だろう。味噌ラーメンや卵サンドウィッチなど日本由来のフレッシュフードの導入が米セブン-イレブンの売上回復につながるのか、注目される。