NEC、トライアルらが「流通エコシステム」開発に着手 26年までに実装めざす

日本電気(東京都/森田隆之社長:以下、NEC)やトライアルホールディングス(福岡県/永田洋幸社長:以下、トライアルHD)らは、10月31日に開催した「チームジャパンで変える流通DX革命」の説明会のなかで、サプライチェーン全体で情報共有可能な「流通エコシステム」を構築することを発表した。企業間で連携してDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めることで、流通業界の構造的な損失を解消し、生産性を高めるねらいだ。

“縦のDX”から“横のDX”へ

 過剰在庫・非効率な物流・チャンスロスなど、日本の流通業界に潜む構造的な損失は約40兆円規模に達するといわれている(トライアルHD配布資料による)。これは流通取り扱い総額の約1/4を占めるとされる。

 これら損失が発生する根本的な要因は、業界の縦割り構造にある。これまで、発注・在庫・販売などのデータは、メーカー・卸・小売各社がそれぞれの仕組みで管理してきた。そのため、サプライチェーン全体で情報が分断され、共有に手間やタイムラグが発生していた。

 この縦割り構造を打破するには、1社単独の努力では限界がある。そこでトライアルHDを発起人として立ち上がったのが「チームジャパン構想」だ。これは業界を横断した企業連携の枠組みで、今回の「流通DX革命」もチームジャパン構想のもとで進められる。賛同企業は現在60社ほど。メーカーからはサントリー(東京都/鳥井信宏社長)などが、卸からは旭食品(高知県/竹内孝久社長)、三井物産流通グループ(東京都/柴田幸介社長)などが参加する。小売からはトライアルHDのほか、西友(東京都/楢木野仁司社長)やスギホールディングス(愛知県/杉浦克典社長)が参加する。

業界横断のプラットフォーム「流通エコシステム」の構築

 チームジャパンによる流通DX革命の原動力となるのが、業界を横断して物の動きを即時にデータ化・共有できる「流通エコシステム」だ。これが実現すれば、メーカーから小売まで、サプライチェーン全体がつながることができるため、受発注・入出荷などの“表裏一体”の業務データを効率よく連携できる。さらに物の流れをリアルタイムで把握できるようになり発注精度や物流効率、納品精度の向上などが期待できるという。

 加えて、データが標準化・共通化されることでAI活用の幅も広がる。トライアルHDの永田洋幸社長は「データが分断された状態では、どんなに優れたAIを導入したとしても十分に力を発揮することはできない。重要となるのは、業界全体でのデータ連携の基盤の整理をすることだ」として、「(データの標準化・共通化を経て)AIが観察・学習・判断のループを実行できるようになれば、“指示待ちツール”から“自律的に働くツール”に変えることができる」と話す。

説明会に臨むトライアルHDの永田社長
説明会に臨むトライアルHDの永田社長

 チームジャパンはDXの実現に向けて、①価値検証フェーズ、②先行試行フェーズ、③展開フェーズと3フェーズを設定する。

 「価値検証フェーズ」では、エコシステムの構築に向け、賛同企業のもとでPoCProof of Concept:概念実証)を進めていく。業界内の競争環境を考慮してまずは非競争領域から取り組む予定で、具体的には請求・支払・在庫確認・リベート情報といったバックオフィス業務から着手するとしている。NECによると、現在は「価値検証フェーズ」の段階で、半年ほど前より一部検証を進めているという。

 続く「先行試行フェーズ」では、参画する小売企業を拡大しながらエコシステムの基盤を構築し、実装する。

 その後「展開フェーズ」では、サプライチェーン全体で参画企業を拡大するほか、取り扱いデータの範囲をID-POSや売場計画などの“競争領域”まで広げるなど、業界標準基盤の確立をめざしていく方針だ。チームジャパンは、26年中に「先行試行フェーズ」に入ることを目標に掲げている。

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