第127回 ショッピングセンターが「フロア収支」を採用しない理由

「フロア収支」という言葉がある。多層階の商業施設、たとえば百貨店や総合スーパー(GMS)などビル形状の場合、フロアごとに損益を計算する。しかし、ショッピングセンター(SC)では一般的にこのフロア収支という考え方はない。今回はフロア収支を考えることで起こるリスクを考えたい。

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商業施設で重視されるKPI、売上高

 SCや百貨店などの商業施設のKPIの中で重視されるのが、売上高とその前年比である。

 百貨店やGMSなどの小売業であれば売上高を重視するのも頷けるが、不動産業であるSCでも売上高(この場合、テナントの売上高合計)の推移を注視する。

 それは顧客の支持が高ければ集客力は増し、購買金額は増加する。逆に顧客ロイヤルティが低ければリピート率は下がり、売上高は下降線を辿る。商業施設にとって売上高は魅力そのものを表すバロメーターであり、売上高に連動する賃料を採用するSCにとっても重要なKPIになるのはそのためである。

最も大切な損益は

 しかし、売上高が増加しても利益が伴わなければならない。SCでも、百貨店でもビジネスである限り、利益やNOI(Net Operating Income:総収入から管理費や固定資産税などを差し引いて算出する)が経営上、最も大切な数値である。

 損益計算は、百貨店やGMSなどの小売業は、収入(売上)から仕入れ原価や販管費を費用として計算し、不動産業であるSCはテナントの家賃収入から不動産の維持保全や人件費など運営管理に関するコストを費用とする。

 しかし、商業施設では売上高を重視するあまり、利益がおろそかになることもあり、その分析のためにフロアごとの損益を管理する。これがフロア収支である。

フロア収支とは

 多層階の建物であれば、フロアごとの売上高(収入)と経費を算出し、どのフロアの売上高や利益が高く、どのフロアが損失を出しているのか、それぞれで分析し、フロアごとの競争環境をつくり出す。たとえば百貨店であれば性別や年齢ごとにフロアが分かれているので(図表)、カテゴリーごとの好不調を明確に把握することができる。しかし、この手法はSCでは行われていない。

図表●一般的な百貨店のフロア構成
8階 催事場、レストラン
7階 家具・家庭雑貨
6階 子供
5階 紳士・スポーツ
4階 ミセス
3階 ミス、ミッシー
2階 ヤングキャリア
1階 コスメ、ラグジュアリー
B1階 食料品

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