HUMAN MADE上場から考えるファッション産業の構造的限界
2025年11月27日、ストリート・ライフスタイルブランドのHUMAN MADEが東証グロース市場に上場した。初値は公開価格を上回り、時価総額は700億円を超えるなど、投資家の期待は異例の高まりを見せた。だが私は、この「宴の後」が必ずしもシナリオ通りに進むとは限らないと考える。ファッション産業の構造的特性、消費者の可処分所得低下、二次流通市場の拡大、そしてカルチャー依存型ブランドの限界が、その理由である。

ギャル文化の衰退に見る「瞬間風速型」の宿命
かつて渋谷109を中心に隆盛を誇ったギャル文化は、若者の自己表現の象徴だった。しかしその後、ギャル文化は急速に衰退した。理由は明白である。第一に、世代交代とともに価値観が変化し、ギャル文化が「時代の空気」として消費され尽くしたこと。第二に、可処分所得の低下により、若者が高額なファッションに投資する余力を失ったこと。第三に、SNSの普及によって「個別のスタイル」が拡散し、特定の文化に集中する必要がなくなったこと。これらはすべて、「瞬間風速型ブランド」の宿命を示している。
HUMAN MADEもまた、可処分所得が減ったファッショニスタの工夫の結果生まれたサブカルブランドであり、社会的背景と強く結びついている。だが社会的背景は常に変わる。ギャル文化が衰退したように、HUMAN MADEも鮮度を失えば同じ道を辿る可能性が高い。
「下北現象」とSDGsの隆盛
現在の「下北現象」、すなわち古着や二次流通品を通じたファッション消費は、単なる生活防衛ではなく、先進国におけるSDGsの隆盛とも結びついている。服の二次流通は世界規模で拡大しており、環境負荷を減らすという社会的要請と、可処分所得の低下という経済的要請が合流している。
若者は「お金がなくてもオシャレを楽しむ」術を磨き、古着やリメイクを通じて自己表現を続けている。これはHuman Madeのようなブランドの人気とも連動しているが、構造的には「一次市場の縮小」と「二次市場の拡大」という産業のパラダイムシフトを意味する。
ロレックスはなぜ増産しないのか
ここで重要な問いがある。
ロレックスは世界的に人気であり、中古市場でも高値で取引される。ではなぜロレックスは増産しないのか。その答えはブランド戦略にある。ロレックスは「希少性」を維持することでブランド価値を保っている。供給を絞ることで二次流通市場の価格を高止まりさせ、一次市場のブランド力を補強している。
つまり、二次流通はブランドにとって脅威ではなく、むしろ価値を高める仕組みとなっているのである。HUMAN MADEも同様に、二次流通での人気がブランド力を補強する可能性はあるが、それが企業収益に直結するわけではない。
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