連載 小売業とM&A 第8回:ホームセンターにおけるM&A活用の方向性

3.今後起こり得るM&Aの方向性

(1) 地域性と既存MDとの親和性が高いコンテンツの獲得    

 顧客のウォレットシェアを拡大するには、地域対応と、既存MD(マーチャンダイジング)との親和性が重要となる。とくに地域対応は、住まいや暮らし方が地域によって異なることで、ホームセンターに求められる役割も変化する。そのため、地域ごとのノウハウを取り込み、対応力を高める手段として、関連企業のM&Aが進むとみられる。

 実際、コーナン商事はホームセンターみつわ(福井県)のような地域に根差した事業基盤をもつ企業との統合により、エリア内での店舗網拡大や、スケールメリットを通じた商圏支配力の強化を図ると同時に、地域特化型のノウハウやライフスタイル提案型の専門サービスを取り込むねらいがある。

 一方、既存MDとの親和性という観点では、DCMがアウトドア専門店「SWEN」やペット専門店「ズースクエア」を展開するエンチョーを買収するなど、専門店事業との相乗効果を見据えたM&Aも進んでおり、今後も同様の動きが広がるとみられる。

(2)法人(プロユース市場)向け垂直統合モデルの構築

 法人向けサービスの強化にあたっては、新たなケイパビリティの獲得が不可欠であり、その手段としてM&Aの活用が進んでいる。具体的には、プロフェッショナルユーザー専用の商材拡充や売場づくり、専門スタッフの配置に加え、早朝営業や現場配送、資材調達から施工までをカバーする法人向けバリューチェーンの構築が求められる。

 米国では、ホーム・デポがM&Aを通じて屋根材や外装資材の流通機能、建材コンテンツを取り込み、BtoBビジネスモデルへの転換を加速させている。一方、日本国内でも動きが活発化しており、コーナンによる建デポの買収を皮切りに、カインズもプロ顧客向け会員制卸売店舗「C’z PRO」の出店に乗り出している。さらに、カインズはプロ向けECサイト「トラノテ」を運営する大都の買収(本稿執筆時点では全株式取得に関する基本合意段階)に乗り出しており、約400万点の商品群と広範なサプライヤーネットワークの活用を通じて、BtoBビジネスモデルのいっそうの強化を図ろうとしている。

(3)ラストワンマイルプラットフォーム構築に向けた機能強化

 ラストワンマイルプラットフォームの構築と外販に向けては、店舗在庫のリアルタイム表示や、オンライン注文から店舗受取への連携、アプリによるDIYサポートといった、シームレスな顧客体験を支える機能が不可欠となる。さらに、店舗をマイクロフルフィルメント拠点として機能させるためには、高度な配送網と自動化された物流オペレーションの整備も欠かせない。こうした機能の獲得を目的としたM&Aは、今後さらに加速するとみられる。

 米ホーム・デポは、2024年に建材販売のSRSディストリビューション、25年には建材卸売のGMS社を相次いで買収し、オンライン注文から配送手配までを自動処理するシステムを導入。全米で1200カ所を超える配送拠点を整備するなど、ラストワンマイルプラットフォーム化を本格的に進めている。

 国内市場の成熟と人口減少を背景に、ホームセンター業界は一層厳しい外部環境および競争環境に直面しつつある。こうした状況下で持続的な成長を実現するには、従来の業態の枠組みにとらわれず、新たな事業領域への参入が不可欠となる。その実現に向けては、必要なケイパビリティを外部から取り込む手段として、M&Aや資本提携を戦略的に活用していくことが求められるのではないだろうか。

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