流通秀書 第5回『チェーンストア経営の目的と現状』

「流通秀書」とは、1993年4月1日号から1997年9月15日号まで、ダイヤモンド・チェーンストア誌の前身である「チェーンストアエイジ」誌で連載された企画である。吉田貞雄氏(故人)による連載は当時、多くの読者に愛された人気連載であった。流通革命前夜、もしくは真っ只中に書かれたこれらの秀書を読み解いた記録から、業界が進んだ道と変わらぬ課題を学び直します。(本文の肩書、年度などは連載当時のまま)」

『チェーンストア経営の目的と現状』流通秀書 第5回
実務教育出版刊(1986年)
渥美俊一著

チェーンストアの普遍的価値を啓蒙する

産業への活路を拓く

 啓蒙とは、埋もれた価値の発見、または新しい価値の鼓吹である。

 啓蒙家は評論家ではない。その違いは、前者には強い独自の価値観があるのに対して、後者にはそれが希薄であるという点にある。価値感覚の希薄な評論の特徴は、現象追随的であり、印象批判的であることから逃れられない。

 そのためボルテージの高い割には、内容の貧しいのが特徴である。一方、啓蒙家は、その根底にある価値感覚が強固であり安定しているため、内容に普遍的なみずみずしさを伴う。

 この本の著者・渥美俊一氏は、学生時代には〈東京大学・法学部〉学生運動に身を投じ、卒業後に読売新聞社に入社。1958年、主任記者として自ら提案し創設した1ページ分の「商店のページ」を執筆。その取材過程に『商業界』主幹・倉本長治氏および公開経営指導協会理事・喜多村実氏の師事を経た。この時、渥美氏が無名商店主たちに「チェーンストア産業論」を叫ばなかったならば、現下のチェーンストアは誕生していなかったといってもよい。

 1956年、渥美氏は倉本長治氏との共著による日本で初めてのスーパーマーケット専門書『日本のスーパーマーケットの経営理論と実際』を発表して以来、’63年から’64年にかけて『大量販売の基礎条件』『大量販売の技術』『大量販売の戦略』(文化社)を発刊。日本のチェーン化レースに拍車をかけたのであった。

 そして、’67年。渥美氏のチェーン化への啓蒙は――「あなたに、すばらしい驚異の世界を、ここに紹介しよう。それは、日本にはかつてなかった驚異的な高収益と高度成長を続ける企業群である。ほとんどの人々が、零細で、経済社会の底辺にうごめいているとしか思っていなかったところに、バラの大輪が咲き乱れはじめたのだ。ある人は、これを『日陰の雑草が、巨木に変身した』と表現する。それは、まさに変革であった」(『小売業成長の秘密』河出書房より)と励まし、中小商店には、「いま、日本の小売業界は、大変革期に遭遇しています。大変革期とは、大きなビジョンさえもてば、独力で大企業になれる時代というわけです」(『商店経営に強くなる事典』ダイヤモンド社・1969年刊)と夢を与え続けた。

 その夢とは、渥美俊一氏の終生のロマン、『チェーンストア産業』づくりの指導なのである。

 この本は、こうした延長線上にある渥美氏の63冊目の書である。

生涯を賭けた活動・行動

 チェーンストアの目的について、渥美氏は述べている。

 「チェーンストア経営が‟産業”と呼ばれるに値するためには、国民生活に画期的な変化が起きるような貢献ができなければなるまい」(8ページ)。

 「売場販売効率が近所の怠け者のお店より多い(繁盛店)とか、年商が普通のお店のレベルよりも多い(成長店)だけでは同じことだ」(26ページ)。

 「――たった1回だけの人生。このかけがえのない一期一会の時々を、精いっぱい努力をしてみたい、生きてきたというあかしがほしい、多くの人びとの幸福に貢献できたという満足〈中略〉

 チェーンストア産業づくりは、ロマンチシストによって築造されるのだ」(27ページ)。

 渥美氏の夢は、標準化された店舗が1社あたり200店以上を運営し、それらが数百社そろって初めて“産業”としての経済勢力となり影響力を持つ。そのチャンスは、’90年代のこの10年間が、千載一遇の時期だという。その基本信念は「生涯をかけて国民や社会のために何事かやってみるというビジョン」(同26ページ)を持ち、ビジョンとは「現状を否定し、あるべき状態がたとえ今は到達できそうにない不可能事にみえてもあきらめず、限界に挑戦していこう」と述べている。

 渥美俊一――この人の名は、2001年の未来から現在を規定して見るとき、日本のチェーンストアに命を賭けて時代とともに走り去った人として、歴史の記憶にとどめ置かれるであろう。

 しかし、いま――彼は「カイコは常に絹を吐く」がごとく、未来チェーンストアのあるべき姿〈戦略〉と歩み〈技術〉を、「一日一生・日々元旦」のように指導(コーチ)し続けるであろう。

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