HUMAN MADE上場から考えるファッション産業の構造的限界
ウォレットシェアにおける
服のポジション
私は「先進国の全員が貧しくなる」とは考えているわけではない。事実、日本は富裕層の数が世界で3番目に多い。つまり、このセグメントは今後も残り続ける。彼らにとっては二次流通ぐらいがちょうどよい選択肢であり、ブランドの希少性を楽しむ余裕がある。一方で大多数の消費者は可処分所得の低下に直面し、生活防衛のために「どこに金を使うか」を厳しく選択している。
すべてを支払える人間はもはや一握りしかいない。だからこそ、服のポジションはウォレットシェアの中で低位なのだ。ユニクロが日本市場で1兆円を超えたことがその証拠である。ユニクロは「生活定番型ブランド」として、服の目的関数縮小に対応した唯一の成功例なのだ。
HUMAN MADEの「宴の後」
最後に、資本市場の評価について触れたい。HUMAN MADEのPER(株価収益率)は約27倍であり、ユナイテッドアローズの約12倍と比べて2倍強の評価が付いている。投資家は「カルチャー株」としての期待を織り込んでいるが、株価が常に正しい未来を組み込んでいると考えるのは危険だ。もしそうなら、投資で成功も失敗も存在しなくなる。
だが現実には、誰もトランプ関税を予測できなかったし、誰もロシアのウクライナ侵攻を予想できなかった。株価は未来を織り込むが、予測不能な事象によって容易に崩れる。HUMAN MADEの高評価も、社会的背景が変われば一瞬で揺らぐ可能性がある。
HUMAN MADEの上場は、日本のストリートカルチャーが資本市場で評価された歴史的瞬間である。しかし、ギャル文化の衰退に見られるように、カルチャー依存型ブランドは社会的背景の変化に弱い。下北現象とSDGsの隆盛は二次流通市場の拡大を後押しし、一次市場の成長を制約する。ロレックスが増産しないのは希少性維持の戦略であり、二次流通がブランド価値を補強する一方で、企業収益には直結しない。
日本には富裕層が残るが、大多数の消費者は生活防衛を優先し、服の目的関数は縮小している。株価は未来を織り込むが、予測不能な事象によって容易に崩れる。したがって、HUMAN MADEの「宴の後」は必ずしもシナリオ通りには進まない。カルチャー型ブランドの上場は持続的成長の保証ではなく、むしろリスクを孕んだ挑戦に過ぎないのである。
河合拓氏の著書、大好評発売中!
「知らなきゃいけないアパレルの話 ユニクロ、ZARA、シーイン新3極時代がくる!」
話題騒然のシーインの強さの秘密を解き明かす!!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤
ページ: 1 2