“コンビニ一本”で企業価値向上へ セブン&アイの新経営戦略の成否
国内店舗に設備投資、店内調理の商品拡充
組織体制を変革し、CVS事業単独で成長する基盤を整えたセブン&アイ。CVS事業は、まず従来から強みとするフレッシュフードを国内外で強化する。同社の食品は、国内外で支持が高く、とくに国内においては「1店舗当たりの食品売上高は競合他社よりも30%多い」(デイカス社長)。
しかし、近年は国内外で競合他社の食品も進化しており、競争が厳しくなっているため、さらなる差別化への投資を実行する。
具体的には、国内の既存店5000店舗以上に対し、31年2月期までに設備投資を実施する予定だ。24年2月にオープンした新コンセプト店舗「SIPストア」を拡大するほか、現在一部の店舗で実施している、焼きたてのパンなどを提供する「セブンカフェ ベーカリー」や、専用マシンで紅茶を淹れる「セブンカフェティー」の全国導入をめざす。
北米では、レストランを併設したCVS店舗が好調のため、31年2月期までに併設店の店舗数を現在の約1080店舗から2倍の2000店舗まで増やす。

新規出店も加速させる。国内では現在約2万1000店舗を展開しているが、31年2月期までに店舗数を1000店舗純増する。北米でも、新規出店数を年間125店舗から250店舗以上に増やし、31年2月期までに約1300店舗純増させる方針だ。
とくに期待を寄せるのはデリバリーサービスの「7NOW(セブンナウ)」だ。サービスを拡充し、31年2月期までに国内での売上高を現在の10倍超となる約1200億円に伸長させる。北米では展開地域を広げ、対応店舗数も年間で200店舗拡大する。
これにより、北米では人口カバー率50%超を達成する見通しだ。デイカス社長は「セブンナウは次世代のCVSを再定義する可能性を秘めており、真の差別化につながると非常に期待している」と話す。

また、国内においては顧客エンゲージメントの強化にも取り組む。デイカス社長は「(セブン-イレブンはこの分野において)競合他社に遅れをとっており、若い世代のお客さまを中心にブランドイメージの低下を招いた」と指摘。お客とのコミュニケーションを活性化するため専属チームを結成して施策を展開し、認知度、好感度の向上を図る。
これらの施策を実行し、31年2月期の営業収益目標は11兆3000億円と、25年2月期から1兆円以上積み増す計画だ。
ACTが買収撤回も、懸念点の解消進まず
新たな戦略を打ち出す前に、セブン&アイの経営課題となっていた買収問題にも決着がついた。7月16日(日本時間17日)、提案主のカナダのCVS大手アリマンタシォン・クシュタール(Alimentation Couche-Tard:以下、ACT)が買収提案を撤回すると発表したためだ。
ACTは同日、セブン&アイの取締役会に送付した書簡を公表。25年初めに1株2600円で取得する提案を行っていたが、「建設的な協議の欠如」を理由に撤回すると明らかにした。
セブン&アイがACTから買収提案を受けていることを公表したのは24年8月のことだ。25年3月には、ACT幹部が来日して記者会見を実施。ACT側は買収への強い意欲を示し、協議に時間がかかっても「撤退はしない」と明言していたが、一転して白紙となった。

協議を通じ、セブン&アイはACTが買収すれば米国でのシェアが拡大するため、独占禁止法に抵触する恐れがあると指摘。米規制当局への対応が必要だと訴えてきた。デイカス社長は、「私やほかのメンバー、特別委員会も、(ACT側と)本当にたくさん話をしたが、問題を是正できるアクションプランがなかなか出てこなかった」と振り返り、今後の経営方針において、買収が撤回されたことは「何の影響もない」と強調した。

祖業含むSST事業売却、新体制で事業成長図る
CVS事業一本で成長していく戦略を公表したセブン&アイ。
「9月をもって、われわれはセブン&アイの歴史上、初めてCVSに特化した事業体になる」とデイカス社長は強調した。
セブン&アイは3月、イトーヨーカ堂やヨークベニマル(福島県/大髙耕一路社長)などのスーパーストア(SST)事業を統括するヨーク・ホールディングス(東京都/石橋誠一郎社長)について、米投資ファンドのベインキャピタルへ売却が決まったことを発表している。一連の手続きは、9月に完了する見通しだ。
祖業であるイトーヨーカ堂を含むSST事業売却について、創業家出身の伊藤順朗会長は「同じグループ内で経営していると、どうしても収益性の格差を比較される。CVSはCVS事業として競合と戦っていて、スーパーや専門店も同様に別のプレーヤーと競っている。大きく2つのグループ(CVS事業・SST事業)が自活し、それぞれ手応えを感じながら事業を進めていくべきだと判断した」と言及した。
そのうえで「(セブン&アイが)一貫して重視してきたのは、10年、20年、あるいは50年という長期的な時間軸での企業価値向上である。これを着実に実行するために、われわれ新しい経営陣が本音で語り合っていくことが重要」と強調した。
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