連載 小売業とM&A 第8回:ホームセンターにおけるM&A活用の方向性
日用雑貨、DIY関連商材、園芸用品、建築資材、工具などの住まいに関する商品・サービスを幅広く展開することで市場を形成してきたホームセンターであるが、近年は、人口減少やECプラットフォーマー・ディスカウントストア・食品スーパーなどの他業態との顧客獲得競争により成長が鈍化している。こうした状況を踏まえ、本稿では、ホームセンター業界が今後の市場変化にどう向き合い、その中でM&Aを戦略的にどう活用すべきかを考察していく。

1. 国内ホームセンター業界の変遷
(1)住宅取得の増加とホームセンターの台頭・全国化
ホームセンターは、1960年代の米国におけるモータリゼーションを背景とした大衆消費社会の到来により誕生した。日本でも70年代以降、住宅取得の増加によってDIYなどによる住まいのメンテナンスの需要が高まり、地方都市圏を中心に普及した。
長らくは地域密着型の中小企業が多数存在するフラグメントな市場であったが、90年代以降、コメリ(新潟県)、DCM(東京都)、カインズ(埼玉県)などのチェーンが台頭し、地域ニーズに応じた品揃えと価格競争力を武器にドミナント戦略を通じて全国展開を加速することでシェアを拡大してきた。
(2)生き残りをかけた経営統合と川下での水平展開を企図したM&Aの活用
これまでのホームセンターにおけるM&Aは大きく2つに類型化される。
1つは同業他社のM&Aによる合理化である。2000年代以降、人口減少や消費者ニーズの変化により、店舗の飽和感や業態の垣根を越えた競争の激化が顕在化し、各社は生き残りをかけて経営統合を加速させた。代表例としては、DCMホールディングスによるケーヨー、ホーマック・カーマ、ダイキ、エンチョーの買収が挙げられる。これらのM&Aは、トップラインの拡大はもちろんであるが、店舗の統廃合、商品開発・物流・仕入れの共通化・効率化を目的として実施され、各社は収益性の維持・拡大をめざした。結果として、カインズ、DCM、コーナン商事(大阪府)、コメリ、アークランズ(新潟県)の主要5社のシェアが全体の5割を超えるなど、業界再編が進展している。
2つ目は、川下領域での水平展開による商品・サービスの拡充とクロスセル強化を企図したM&Aである。該当するM&Aは近年見られるようになっているが、カインズによる東急ハンズの買収は、その例である。ライフスタイル提案型の商品・サービスを取り込み、プライベートブランド(PB)の開発やリフォーム・DIYサービスを強化することで、顧客体験やブランド価値を向上し、顧客一人あたりの単価アップを実現させた。そのほか、コーナンによるホームインプルーブメントひろせ(大分県)の買収は食品スーパーマーケット事業の取り込み、ボーダレス(兵庫県)の買収は工具リユース事業の取り組みを企図して行われた。
2.今後のホームセンターの戦略方向性
(1)コンテンツ拡充によるDIY顧客のさらなるウォレットシェア拡大
コロナ禍を契機に、園芸やアウトドアなどのカルチャー教室やキャンプ用品の体験展示、リサイクル・リフォームの提案や支援、ペット関連商品などが定着し、これらを含めた商品・サービスの拡充が進んでいる。こうした取り組みにより、DIYを志向する顧客との長期的な関係構築が可能になると考えられる。
実際、DCMは木材の切り方や簡単な設計図の書き方、お役立ちグッズの使い方を学べるカルチャー教室を展開している。一方、コメリは住宅関連サービスの一環として、賃貸物件の原状回復工事や店舗の清掃・修繕など、物販にとどまらない住まいの困りごと解決にまで対応の幅を広げている。いずれも、DIY志向の顧客に対するウォレットシェア拡大を見据えた取り組みといえる。
(2)法人向けサービスの本格展開によるプロ顧客の開拓
工務店や建設業者といったプロユース市場は、景気変動の影響を受けにくく、購買単価も高いため、ホームセンターにとって有望な成長領域とされる。これまで国内のホームセンターは、一般消費者を対象とした生活密着型の業態として発展してきたが、米国では法人需要の獲得に軸足を移すモデルが主流になりつつある。
たとえば米ホーム・デポでは、法人向け売上の比率がすでに全体の約50%に達している。一方で、国内大手ホームセンター企業の法人比率は約20%にとどまり、今後は業務用資材の拡充やプロ専用売場の設置、法人アカウント制度やロイヤルティプログラム、さらには信用・分割払いといった金融支援を通じて、プロ顧客向け事業の強化が進むとみられる。
(3)オムニチャネル体験の強化と物流機能の強化・収益化
ECやスマートフォンアプリを通じた購買行動が一般化するなか、ホームセンターもデジタルとの融合を急速に進める必要がある。オンライン相談やパーソナライズされた商品提案、アプリによる在庫確認など、顧客接点の高度化が進む一方で、リアル店舗はマイクロフルフィルメント拠点としての機能を担い始めている。
こうした変化を踏まえ、ECと即時配送の利便性を両立する「ラストワンプラットフォーム」の構築が今後の課題となる。その基盤が確立できれば、店舗網や在庫管理、配送連携で培ったノウハウを、SaaS(Software as a Service)やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)として外部提供し、新たな収益源とすることも可能になる。
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