連載 小売業とM&A 第6回:総合スーパーにおけるM&A活用の方向性

4. 価値向上に向けた今後のM&Aの方向性

新たなコンテンツや機能の獲得が必須 

 退潮期を経て、現状のコンテンツや機能を延長線上で強化するだけでは、一時しのぎに終わることを各社はすでに経験している。したがってGMS各社は、自社のターゲット商圏にとって最適なフォーマットを見極めながら、新たなコンテンツや機能の獲得を進める必要がある。

 不足している要素を突き詰めると、(A)〜(C)の3点に収斂すると考えられる。これらのケイパビリティは、必ずしもM&Aによって獲得しなければならないものではない。しかし、GMSの得意領域の外側に位置する能力であることを踏まえると、自前での開発に時間をかけるよりも、成功事例を持つ他社をM&Aによって取り込む方が、確実かつ得策である。

(A)商圏ニーズを満たすための、必要なコンテンツの取り込み

 イズミ(広島県)が展開する「ゆめモール」に代表されるように、衣食住をコンパクトに集積した近隣型ショッピングセンター(NSC)は、いまの時代潮流に合致したフォーマットである。この業態の生命線は「食」にあり、総菜や冷凍食品、菓子などの品質向上と提案力の強化には、消費者ニーズの把握、製造機能、効率的な物流ネットワークの三要素が欠かせない。

 同社が中四国や九州で進めるドミナント形成はその典型であり、いわゆる「エリアの雄」である有力食品スーパーを買収し、地域に根差した事業基盤を強化している。各地域で長年にわたり消費者の信頼を築いてきた優良店や二番店を取り込むことで、地域密着型の店舗づくりをより実効的に追求することが可能になっている。

 「食」コンテンツがまず中核を担うとみられるが、GMSが各商圏で支持を得続けるためには、商圏ごとの生活必需品に絞り込んだワンストップ構成をいかに整えるかが重要である。将来的な人口推計を踏まえると、高齢化社会に対応した未病・予防領域から地域包括ケアまで、GMSがカバーし得るコンテンツはさらに広がる可能性がある。

 このように、消費者ニーズを基軸に据えた強力なマグネットコンテンツを地域ごとに発掘し、提携や買収を通じて取り込む動きは、今後いっそう活発化していくだろう。

(B)広大な売場を埋めるための、リーシング機能の強化・取り込み

 かつてのGMSにとって、リーシング機能は不要なものだった。強力な専門店を誘致すれば、自主編纂による直営売場の魅力が下がり、顧客を奪われるという懸念があったためである。

 イオンの運営する「そよら」では、直営売場を「フード&ドラッグ」といった生活必需品に絞り込み、それ以外の生活雑貨や衣料品、耐久消費財、サービスなどは、イオングループ各社を含む専門店テナントに委ねている。上層階では競争力の高い専門店チェーンに貸し出す定期借家型の割り切り運営も増えている。

 商圏の消費者目線で見れば、子どものランドセルだけでなく、入学・卒業式で着る保護者のスーツや地域の祭りで着る浴衣も生活に必要なコンテンツだ。これらは本来GMSが得意としてきた領域であり、自社編集へのこだわりも強かった。しかし、消費者は「GMSのアパレル」には購買意欲を感じにくい一方で、GMSという“箱”に入るアパレル専門店では抵抗なく買物をしている。これは、GMSアパレルが苦戦を強いられている現実を端的に示している。

 ともあれ、アパレルにせよその他のサービスにせよ、商圏の社会行事ニーズに応え続けることは、GMSがとくに地方で存在感を高めるうえで重要な要素である。上述のような現実を踏まえると、自社での売場編集にこだわらず、テナントに委ねるリーシング活用へのシフトは、今後さらに重要度を増していくだろう。

 その際に問われるのは、GMSにとって効果的なテナントをいかに効率的に誘致できるかである。この成否は、館全体の魅力度の底上げはもとより、収益力の向上にも直結する。さらに、テナントとの交渉力を高めるには、経営指標の収集・分析やテナントコネクションの強化、専門的なコミュニケーションから誘致までを一体的に担うリーシング機能の高度化が欠かせない。これらの機能をM&Aによって補完・強化することは、GMSにとって有力な生き残り策の一つとなる。

(C)BtoBデータビジネス機能の強化

 前章でも、GMS復活のカギの一つとしてデータ活用を挙げた。活用の第一段階は「自社分析に向けたデータの統合・整備」、第二段階は「他社への販売に耐え得るデータ保有」である。
各社の自助努力もあり、自社顧客のニーズ分析に耐え得るレベルのデータ整備は、一定程度まで進んでいるように見受けられる。しかし、コロナ禍を経てリテールメディア事業の強化に挑むなか、GMS各社の顧客データは、コンビニエンスストアやドラッグストアと比べて依然として魅力度が低い。

 その主な要因は三つある。第一に、消費者接点が相対的に少ないこと。第二に、傘下業種ごとにデータ管理が異なり、グループ横断で統合されていないこと。第三に、データの羅列にとどまり、示唆へとつながる情報になっていないことである。結果として、せっかく蓄積された情報も、活用者の視点から見れば“生きたデータ”にはなっていない。

 一方で、GMSの購買情報には独自の強みがある。コンビニエンスストアのように不特定多数の無作為な購買ではなく、商圏の顧客や家庭の生活実態を映す情報である点だ。すなわち、全国規模で顧客接点を持つコンビニとは異なる情報価値を見いだすことができる。

 東北・北海道エリアに強い食品流通グループのアークス(北海道)では、グループ横断で数値比較が可能な基幹システムを整備している。これは、さらなる提携企業の増加を見据えた取り組みであり、同社はM&Aを今後の重要な成長エンジンと位置づけている。新日本スーパーマーケット同盟の共同データ活用や、トライアルによる顧客データ関連の取り組みを見ても、GMS業界でのデータ活用範囲の拡大はすでに規定路線といえる。

 ただし、自社単独での分析から、グループ内・提携企業間、さらに取引先メーカーにまでデータ活用を広げるには、商圏やターゲット顧客に即した「売れるデータ=生きたデータ」への整備が不可欠である。GMSは多業種を束ねる業態であるため、消費者の行動や思考を可視化する統一のモノサシを持つことは容易ではない。

 さらに、データ解析や分析を行えるコンサルティング力を含む「データ高度化」のケイパビリティも十分とは言いがたい。今後は、データ外販を見据え、自前での取り組みから機能取得へと舵を切り、一気にその価値を前へ進める必要がある。

 今後もGMSという業態は厳しい環境下にさらされ続ける可能性が高いことから、「GMSでいかに儲けるか」ではなく、「GMSをいかにうまく活用するか」にフォーカスする勝ち筋が濃厚になるだろう。幸いにして、ハレの日需要を取り込む百貨店に比して、消費生活全般を狙うGMSは事業機会の広がりに対応できる可能性も高い。

 従来のGMSの業態目線にとらわれることなく、消費者ニーズを基軸とした新たな事業機会と自在なトランスフォーメーション力の強化に注目していきたい。

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