岩手県盛岡市で、あの文学者の足取りを追いつつそばを楽しむ
そば2枚とかき揚げを注文
店に到着したのは午前11時30分。さすが人気店だけあり、平日なのにもう数組、お客が並んでいる。店頭に用意された椅子に座り、私も順番が回ってくるのを待った。

待つこと約10分、従業員に案内され席に座る。店内は長細い構造で、チラと見ると奥まで多くのお客で賑わっていた。
メニューを手に取り、何を注文するかを検討した。「蕎麦は三種からお選びいただけます」とあり、見ると「挽き包み(ひきぐるみ)」「さらしな」「だったん」が列記されている。「挽き包み」は、「蕎麦の実すべて、甘皮も一緒に挽き包みました」。また「さらしな」は「身の中心部15%しか取れない純白の蕎麦です」、「だったん」は「別名ニガそば、少しにがい品種です。ポリフェノールの一種ルチンが多く含まれます」と記されていた。

私は「挽き包み」「さらしな」を、「もり」と「かけ」があるうち「もり」を選択。さらに、ほうれん草、れんこん、鮭のかき揚げ「季節天」を注文する。
料理が来るまでの間、店内を観察すると地元のお客が多いようだが、旅行客も結構含まれている印象だ。会社員、親子連れ、友達同士など客層は多様で、40代以上の比較的落ち着いた年齢層が目立った。
約10分ほどで届いたのがこれ。素朴な見た目が食欲をそそります。備え付けの箸をパチンと割り、早速、いただく。まずは「挽き包み」から。ねぎ、わさびを適量入れた、つゆに少しつけ、すっと吸い込んだ。そばの風味が感じられ、とてもおいしい。次は「さらしな」。やや色が薄く、上品な感じで、こちらも美味である。季節天を交互に頬張りながら、夢中で食べ完食、おいしかった。


裏手にもゆかりの地を発見
お腹が落ち着き、周辺を少し散歩することにした。すると店の裏手に、またもや「宮沢賢治ゆかりの地」と書かれたプレートを発見した。どうやら大正6年、盛岡高等農林学校(現岩手大学農学部)時代に下宿した場所のようだ。今も当時の共同井戸があり、大切に保存されている。

大正6年といえば、私が利用したそば店の創業よりも7年早い。だが賢治が没したのは昭和8年(1933年)なので、もし昔を懐かしんで下宿付近を再訪したとしたら、まだ新店時代の「やまや」で食事をしたことも十分に推測できる。
そんなことを考えていると、歴史上の人物が急に身近に思えてきた。いい時間を過ごしたと、充実した気持ちになりながら、私は再び、自転車を漕ぎ始めた。
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