業務用端末の”乱立”を解消へ! イオンリテールの「オールインワンデバイス」の全貌

イオンリテール(千葉県)は、店舗業務の効率化と生産性向上を目的に、従来は用途ごとに使い分けていた業務端末を統合した「オールインワンデバイス」を2025年度より全店舗に導入する。最大5種類あった端末を1台に集約し、業務の煩雑さを軽減するほか、生成AIを活用した業務支援機能も搭載。従業員の働き方を根本から改善するイオンリテールのビジョンとは──。

イオンリテールのIT企画本部長である山村卓也氏
イオンリテールIT企画本部長の山村卓也氏

”端末乱立”の課題を解消、デバイス統合へ舵を切る

 イオンリテールは近年、AIを活用した店舗業務のデジタル化を急速に推進してきた。値引き判断を自動化する「AIカカク」や、需要予測に基づいて発注数を算出する「AIオーダー」、希望シフトとスキルに応じて最適な人員配置を提案する「AIワーク」、売場情報や業務連絡をリアルタイムで共有できる「MaIボード」など、業務効率化を支える各種システムを次々と導入し、作業の標準化と省力化を図っている。

 一方で、システム導入が進むにつれて業務ごとの専用端末が増加。発注端末、商品管理用ハンディターミナル、教育用タブレット、PC、社内スマートフォンなど、最大5台のデバイスを使い分けるといったケースが生じていた。現場従業員は複数の端末を持ち歩き、端末ごとに異なるログイン作業を強いられるなど、業務の煩雑さが課題となっていた。

 こうした状況を受け、イオンリテールは従業員からの意見収集を強化。従業員約10万人を対象に年間約3000件規模の声を集める仕組みを構築したところ、「デバイスを統合してほしい」「シングルサインオンで簡単に利用したい」「商品の位置がすぐにわかるシステムがほしい」といった具体的な要望が相次いだ。これをきっかけに、同社は23年頃よりデバイス統合構想を具体化。約1年の開発期間を経て、25年度より全店への展開を本格的に進めていく計画だ。

「オールインワンデバイス」の機能と特長とは

 新たに導入される「オールインワンデバイス」は、従来5台に分散していた端末を1台に統合したものだ。これにより、「AIカカク」「AIワーク」「AIオーダー」「MaIボード」のほか、商品管理、動画による教育、事務作業など、多岐にわたる業務を1台の端末で一元的に管理・操作できるようになる。

 また、従来個別端末で提供されていた機能に加え、業務を効率化するさまざまな先端機能が新たに搭載されている。具体的には、文字OCRスキャンによる賞味期限などの文字情報読み取り機能、一括で複数のバーコードをスキャンする機能、高所や遠方の商品バーコードを読み取る長距離スキャン機能などだ。これらにより、業務の精度向上と作業時間の短縮が実現される。

一括で複数のバーコードをスキャンできる機能を搭載
一括で複数のバーコードをスキャンできる機能を搭載

 「商品位置検索システム」も新たに開発した。商品バーコードを読み取ることで、その商品の棚位置が端末に表示される仕組みだ。これにより、新人スタッフでも商品補充やピックアップを迷うことなく効率的に行えるようになった。

 さらに、生成AIを活用した音声入力式の「AIアシスタント機能」を搭載している。店舗内のサービスカウンター業務では、免税手続きや施設情報など複雑で属人的な問い合わせが多く、新人スタッフには対応が難しいことが課題だった。このAIアシスタントは、音声入力だけで即座に必要な情報を検索し回答する仕組みとなっており、業務の属人化を解消することが期待されている。

直感的なUIで教育負担を軽減、「説明書がいらない」端末へ

 オールインワンデバイスの導入にあたり、イオンリテールがとくに注力したのがUI(ユーザーインターフェース)の設計だ。端末統合によって画面が煩雑になることを避けるため、社内に女性を中心としたデザインチームを設立。実際の端末利用状況を分析し、従業員が頻繁に利用する機能をフロント画面に優先的に配置するなど、直感的に操作可能な画面設計を徹底した。

オールインワンデバイスのアプリ画面
オールインワンデバイスのアプリ画面

 イオンリテールIT企画本部長の山村卓也氏は、「説明書がなくても直感的に操作できることを目標に開発した。万一操作がわからない場合でも、端末内のAIアシスタントに聞けば解決できる仕組みを整えた」と説明する。これにより端末操作に関する教育負担が大きく軽減され、店舗での人材育成の効率化にもつなげる考えだ。

 また、端末本体のデザインについても、従来の業務端末からイメージを一新。約8色のカラーバリエーションを展開し、従業員が親しみを持って利用できるよう配慮している。「店舗スタッフから『自分の店舗にはどの色が入るのか』と期待の声も多く寄せられている」と山村氏は話す。

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