大パラダイム変化のアパレル KPIは「製品軸」から「顧客軸」へ変わる

「製品軸」と「顧客軸」

 さて、このような背景から、多くの日本企業は「製品を主軸としたKPI」を疑問さえ持たずに信奉してきた。たとえば、「在庫回転率」「商品リードタイム」「4KPI(これはこれで正しい運用をすれば非常に強力なツールとなる)」「在庫週数」「53週MD」など、すべてを「製品軸」で評価しているわけだ。

在庫を起点にビジネスがスムースにゆくのは、極めて強い世界ブランドが確立されたときである。私は、通販企業の役員とコンサルを6年以上続けてきたが、その考え方の違いに驚いたことがある。4KPIは同じとしても、「客単価」「セット率」「CPA」「LTV」など、すべてが「顧客軸」で動いていた。彼らの戦略はこうだ。

 まず、広告などで顧客リストをデータベースに登録する(Acquisition Costという)。そして、RFM分析といって、「Recency:最も最近買った人」「Frequency:最も頻繁に買ってくれる人」「Monetary:最もお金を落としてくれた人」にのみカタログやメールで反応させる。また、顧客を、ハイユーザ、ミドルユーザ、ローユーザのように分類し、客単価の高い人を統計から導き出し、優待などで差をつけ、「離脱」しないようにハイユーザのLTVをあの手この手で伸ばしてゆく。すべてが「客目線」なのだ。

 どうだろう。そもそも1ℓしか入らないバケツに、1.3ℓの水をいれれば、30%が漏れ溢れる。また、日本の人口減少、少子高齢化はどんどん進み、小さなパイを多数の企業が奪い合っている構造なのである。もともと入らない器に、無理矢理価格を下げてでも詰め込もうとしているようなものであり、これは企画が外れたからでなく、製品主体の管理手法で需要予測や在庫の振り回しをやっているからだ。

4×6/iStock

通販企業から学ぶべき、顧客視点のKPI

 消費が小さくなっているのであれば、大きくなっている市場に出ればよい。今、中国は米国と覇権争いをしており、都市が独立しているため、海外進出から24年もたったユニクロでさえ苦戦している。現在の人口増加を牽引しているのは、インドネシア含む東南アジア、インドなどである。裸で生きている人は一部の例外を除いていないわけだから、人の数が増えれば、どこかの誰かが服を供給するビジネスが生まれる。

 したがって、世界の衣料品市場は成長中なのだ。裏を返せば、それだけ海外展開は難しく、ノウハウのある人材との協業、正しいパートナー選びが必要となるわけだが、ここではHOW論よりも本質論を語りたく、製品軸をKPIにした企業管理では小さくなって行くパイを奪い合っている構造には変わらず、正しい解決案とはいえない。

「では、お前の考えは何か」と言われそうだが、私は通販事業での経験により、Acquisition(顧客獲得)施策とRetention(離脱防止)施策を顧客目線で主要KPIとすべきだという立場である。たとえば通販企業はRetention、つまり顧客がほかの通販に鞍替えしない施策に力を入れている。別の通販企業はあの手、この手でLTV (顧客生涯価値)を伸ばそうとし、顧客を差別し、ポイントプログラムやCRMを使って逃げないように、囲い込んでいるのだ。

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