大パラダイム変化のアパレル KPIは「製品軸」から「顧客軸」へ変わる

今、世界は大きな転換点にあり、アパレル産業は10年後の未来が見えなくなっているばかりでなく、3カ年基本計画さえも「想定外の事故」で、まき直しが必用となっている。真っ先に動いたのが中間流通である商社だった。財閥3社は「繊維撤退」を標榜し、専門商社はアパレルにM&Aされる時代になった。

hunur/iStock

海外勢と「本気」で戦おうとしない日本企業

 皆さんは、そもそも商社というのは繊維原料、繊維製品を世界に売るために成長してきたという事実をご存じだろうか?

 伊藤忠商事は、今でも繊維は売上の大きな柱となっているが、そのほかの商社はユニクロの「商社外し」を起点に、別領域に広がっていった。私が社会人になった1991年は、「商社と言えば生地の輸出」と言われるほど、「繊維」と「商社」は切っても切れない関係にあった。トーメン、ニチメン、兼松、丸紅……と、一昔前の商社は、繊維を主軸に巨大化していったのだが、今はどれもが「生活産業」というライフスタイルの括りになり、主力事業だった繊維・アパレルに真っ向から挑んで収益を出しているのは伊藤忠商事だけという状況だ。

 一方、LVMHは円安効果をねらってか、こうして培われた技術を内製化するため、日本でファンドをつくろうとしている。先進国は成長が止まり、東南アジアのような途上国はGDPを伸ばし続けているのに、多くのアパレル企業は海外で本気で戦おうとしていない。

 私は、こうした現実を踏まえ、第1章では余剰在庫を発生するメカニズム、第2章では直貿にすることによる効果と、自社販管費を戦略的に使うことによるインパクトの大きさについて語った。第1章の余剰在庫は、SNSやスマホの大衆化により、マス・マーケティングが通用しなくなり、ナロー・マーケティングへ向かい、そして、究極はSKUとパーソナルをデジタルで結ぶ時代が来ると論じた。そもそもMDがはずれたのではなく、1990年をピークとする15兆円の規模のアパレル産業が、日本の少子高齢化と原価低減を求める「南下政策」によって、8兆円と半分になっている事実を提示した。

パラダイムシフトに対応する「新産業論」

 しかし、これには但し書きがつく。この8兆円という市場規模は、外資SPAが入っておらず、日本のデザイナーズ&キャラクターズブランドの総売上高であり、「ZARA」「H&M」「SHEIN」などの外資の売上高は引かれていない。仮にこれらが1兆円だとすると、市場規模は7兆円近くになるはずだ。つまり、MDが外れているのではなく、日本人が「中価格帯」という幻想を今でも追いかけて、なんとかMDの予測精度を上げようと、グレイヘア・コンサルの「昔の経験談」をそのまま信じているということを指摘した。

 また、直貿は上代換算でわずか数%の効果しかないのに、世界企業の40%台、ファーストリテイリングの30%台と比較して、日本企業の売上高販管費率は50%以上もある。その内訳は、圧倒的に出店しすぎた赤字店舗の家賃代、人員生産性が悪いために起きる人件費が多くを占め、キャッシュフローの観点からいえば、適切なデジタル投資をしっかりとした分析もせずに導入したシステム減価償却費、あるいはサブスクフィーが上位になっているわけだ。

 こうした世界の大きな変化に対応するため、「新産業論」のようなものをつくりたいという思いから、私は徹底的に海外事例を調べ、現地に出向き、肌感覚で確信を掴むまで沈黙を続けていた。今、私はベトナム企業に勤めているが、日本のデジタル企業と異なり、恐ろしい勢いで成長しているのに驚愕している。

ページ: 1 2 3

Previous Post Next Post