第120回 ECの脅威は物販にあらず SCが直面する本当の脅威とは
「ECに客を奪われた」と、ショッピングセンターや百貨店の関係者が言うのをよく耳にする。確かに、ネット環境とスマートフォンの普及、そしてEC事業者による多様な工夫によって、物販市場は大きく変化した。かつては店舗でしか手に入らなかった商品が、いまやクリックひとつで自宅に届く時代となり、そこへ追い打ちをかけるように新型コロナウイルスの流行がオンライン社会への移行を加速させた。しかし、ショッピングセンターや百貨店といったリアルな商業施設にとって、ECの本質的な脅威は必ずしも「物販」そのものではない。今回はこの視点から、ネット時代におけるリアルな売場の意味と戦略を再考する。

BtoCのEC市場は24兆円超へ
経済産業省が公表する「電子商取引に関する市場調査」によれば、2023年のBtoCのEC市場規模は24兆8435億円に達し、継続的な拡大傾向が続いている(図表1)。

この数値をショッピングセンターや百貨店、チェーンストアなど他業態と比較すると、EC市場の伸びは際立っている(図表2)。

こうした背景から、ショッピングセンター関係者が「ECに客を取られた」「このままではリアル店舗はECに抜かれる」といった危機感を抱くのも自然な反応だ。しかし、ネット社会における脅威は、単なる物販の流通にとどまらない。リアルな商業施設が直面している課題は、より広範で本質的な変化に起因している。